子に対しても恥かしい事だと云う思いがどうしてもまぎらされなかった。
 果物などを食べながら皆がさも面白そうに下らない事を云って笑い興じて居る間に、お久美さんは独りで土間の前に立って、身の置き所の無い様な失望と激しい情無さで、さっきまでの喜びを跡片もなく洗い去る程の涙をポロポロとこぼして居た。
 生きて居ても仕様の無い様な淋しさが心一杯に拡がって来るので有った。
 翌日は午前に、重三はお関に連れられて近所廻りに行った。
 来た時の通りな装りをして足の下に隠れて仕舞う様な籐表ての駒下駄を履いて固く成ってついて行く様子を見送って、井戸端に居た恭吉は、
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「へ、好い若旦那だ。
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と云って嘲笑った。
 小女とお久美さんは其れを小耳に挾んで井戸端の方へ振向きながら、
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「聞えると大事だよ。
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と云って笑ったけれ共、お久美さんには、恭が濡れた手先をズーッとのばして白いシャツの腕で額の汗を拭いた時の様子が目に残って居た。
 一番先に道順でも有るのでお関は※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子の家
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