萄畑の方へ来て、入るのを怖れる様に入口の木戸を半開きにして、
[#ここから1字下げ]
「お久美さん居ないんですか。
皆さんがお帰りですよ。
[#ここで字下げ終わり]
と大声を出した。
喉が渇いた様な気のして居たお久美さんはすぐ声を出せなかった。
暫く黙って返事を待って居た小女がもう一度、
[#ここから1字下げ]
「お久美さん居らっしゃらないんですか。
[#ここで字下げ終わり]
と云った時漸々、
[#ここから1字下げ]
「なあに。
[#ここで字下げ終わり]
と云って出て来たお久美さんの顔は小女が気味を悪くしたほど真面目に凝り固まって居た。
非常に厳な気持でお久美さんが主屋へ行った時は山田の主人と新らしく来た人とが向い合って座って居るわきでお関が突き衿を仕い仕い大きく団扇の風を送って居る所だった。
[#ここから1字下げ]
「お帰んなさいまし。
[#ここで字下げ終わり]
とお辞儀をすると、山田の主人は機嫌よく若者の方を見ながら、
[#ここから1字下げ]
「はい只今。
さあ、この人が重三さんと云ってな、今日から家の若旦那だよハハハハハハ。
[#ここで字下げ終わり]
と酒に酔った様な顔
前へ
次へ
全167ページ中109ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング