でもない」静けさで被うて居ようと自分の前に努力《つと》めて居るいじらしい様子を見ると、余り可哀そうな之からの事を思うて※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は口も利けない様であった。
自分はあまりひどくお久美さんを悲しませない様に見守って行く丈なのだ。
歓びには極が有る。喜びに躍る心は自分で鎮められる時は遠からず来るものである。
けれ共悲しみの深さは量り知れない。
心の底の底まで喰い入って行く悲しみの中に、静かに手厚く慰める者の有る事は決して無駄には成らないと※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は思って居た。
歓ぶ者の前に其の歓ぶ者を悲しむ者が居るのは痛ましい事だ。
※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は二つ年上の「娘」を種々な思いに耽りながら眺めて居た。
十一
辻へ行ってからのお久美さんは実に優しい可愛い娘で有った。
絶えず輝いて居る顔、静かながら情の籠った声は、辻の全家族に好い感じを起させた。
主人は神の御恵に浴し得た霊の輝きだとか何とか云って居たけれ共、主婦や老人は延々としたお久美さんの体を
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