て居る女の前で益々乗ぜられる様な素振りを現わす事はこらえる丈の余裕は有った。
 年の故で人の好くなって居る祖母は、たった一人の女の子の孫に与えられた賞め言葉ですっかり満足して仕舞って、子供の様な眼差しをしながら、他人から見れば立派でも美くしくもない孫の体を見上げ見下しして、
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「ほんとにねえ、年と云うものは恐ろしいものですよ。去年来ました時には前の川で魚を取る事許りに根《こん》をつくして居ましたっけが、此頃は一角大人なみに用を足してもくれましてね。
 けれども朝から晩まで机の前に座ったっ切りで居られるのは何より心配ですよ。
 第一躰のためによくありませんのさ。
 昔の労症労症って云ったのは皆座って居る者に限って掛ったものですからね。
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と真面目らしく云うのを聞いて居た者は、皆笑って仕舞った。
 お久美さんは体を前後に振って永い間たまって居た心からの笑いが今あらいざらい飛び出しでも仕た様に涙をためて笑いこけた。
 静かに微笑みながらお久美さんを見守って居た※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は、鮮やかな赤い唇が開く毎《た》び
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