に堅そうに細かい歯ならびがはっきりと現われる単純で居て魅力のある運動に半ば心を奪われて居て、今自分が何を笑って居るのかと云う事さえもたしかではない様であった。
一しきり笑いがしずまるとお関は又元の頑なな顔の表情に立ち返って、
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「それにしてもまあ女の子の育つのを見て居る位不思議なものはありませんですよ、
まるで何て云って好いか丁度日あたりの好い所に生えた芽生えの様なもんですね。
一日一日とお奇麗におなんなさる。
好いお嫁さんにおなんなさいますよ。
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私見たいに老耄《おいぼれ》ちゃもうお仕舞いですよ、ほんとうに、皺苦茶苦茶で人間だか猿だか分りゃあしない。と云い云い二人の娘を見た眼には明かに憤怒の色が漂って居た。
※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は少し驚ろかされて此の四十五の恐ろしく嫉妬深い女の顔を眺めた。
妙に厚ぼったく太い髪と顔下半分の獣的な表情は、そのゼイゼイした声と一緒にお関を余程下等な感じの悪い女にさせて居た。
歯からズーッと齦まではかなり急な角度で出っ歯になって居て、その突出た歯を被うには到底足
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