れて一人もあまさず一所にかたまった若者は、荒い北風と貧しい生活に育てられた野性を隠す所なく発揮して、さわがしく怒鳴りながら折々ワーッと鬨の声をあげた。
彼等は皆極度の亢奮で顔を赤くし目を輝かせて、鍬を振い鋤を握るになれた力の満ち満ちた腕を訳もなく宙に振ったり足を踏みならしたりしながらその単純な胸の中を争闘の本能の意外な衝動に掻き乱されて、一人として静かな我を保って居る者はなかった。
主人夫婦に対する憎しみは喉の張り裂けそうな声となって二階に犇めき上って行った。
或る者は力まかせに階子を足蹴にしたり拳で叩いたりした。
若者共は悪口の種をあさった。
選挙の日、反対党を撲った事
買収仕にかかって失敗した事
その他あらゆるその男の恥辱になる事々を叫びながら、
「殺して仕舞え」の
「覚えて居ろ」の
声をそろえて今にも逃げ路のない二階へ雪崩れを打って躍り込みそうな勢を示した。
あまりの事に暫くの間黙って見て居た娘共は、物凄い叫び声と皆の顔に怯えて、音もたてずコソコソとかたまりあって黒い外へと逃げ出して、息を弾ませながら走り去って仕舞った。
お久美さんは只恐ろしかった。
今にも自分達が殺されてでも仕舞いそうになって、納屋の中に農具と一緒にかたくなって震えて居た。
皆をなだめる筈の恭吉は真先に姿をかくして仕舞って居たし、集まった者の相当な年の者は最初主人が立ち去ると同時に帰って仕舞った。
すべての様子が皆若者達が暴威を振うに適した状態にあった。
互の声と激亢に煽られて急造の机を履み倒したり、キリストの絵を裂いたりして居ても二階からは人の顔がのぞきもしなければコトッと云う音さえもしなかった。
主人と清川は運ばれたばかりのビール瓶を握って階子口の両側に立って、黒い頭の現われるのを待って息をのんで居た。
お関は半ば失神した様になって戸棚の中にボーッとして居た。
上と下とで互に相手の現われるのを待って居た。
上から降りて来る者は誰も居なかった。
下から昇って行く者は一人もなかった。
両方の張りつめた心は少しずつゆるんで来た。若者共の叫びは折々思い出した様に繰り返された。
けれ共彼等の目前には黄色の灯の下に取り乱された貧しい家具と引きさかれた絵が淋しく淋しく霊を地の底に引き込みそうに横わって居るばかりだった。
十二三の喉が拡がって迸り出る声が無限に続いた闇の中に消え入って仕舞った後の沈黙は、激情の赴くがままに走った後の眠りを欲するまでに疲労した心の奥までしみ透って、互に目を見合わせて寄り合わずには居られない程の陰鬱と凄惨な気分が漲って居た。
若者等の口からは太い吐息がもれた。
そして涙のにじむ様な気持になって影の様に去って仕舞った。
若者達の去ったのを知って上の男は始めて自分のそこにそうやって立って居る事を気づいた。
気が抜けて崩れる様に座についた二人はだまったまま酒をつぎ合って喉の渇きの癒えるまで呷りつづけた。
暖味が快く体中に廻って、始めて、
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「いやどうもひどい事だった。
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と主人が云った時にはお関も漸《ようよ》う気が落ついておそれながら下の様子を見に降りると、取りちらした中に恭とお久美さんがぼんやりたって居るのを見つけた。
お関はカーッとなった。
いきなり噛みつく様な声を出して云った。
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「お久美、
一体どうしたって云うのだい、それは。
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何心なく立って居たお久美さんは喫驚《びっくり》してお関を見ると
始めてその気持が分って、少し狼狽しながら、
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「彼の人達が斯んなにして行ったのよ。
私今来たばっかりで何にもしない。
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と低い声で云ったけれ共お関は益々いら立って、
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「さ、恭、
お前あっちへお出で、此処はいいから。
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と命じてから、
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「お久美、まあお座り。
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とお久美さんを自分の前へ引き据えた。
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「お前は此処で何をして居たんだい、え、お久美、
お云い。
すっかり白状しておしまい。
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お関の口元は自分の家を滅茶滅茶にして行った若者に対しての憤怒とお久美さんに対しての嫉妬でブルブルと震えて居た。
元よりお関だってお久美さんが只偶然恭の居る所へ来合わせて何の気なしに居たのだ位は分らないではなかったけれ共、若い者同志だ、何だか分ったもんじゃあないと云う気持と、恐怖と憎しみで乱されて居たお関は疑わずには居られなかった。
お久美さんの顔を見て何か云って泣かせてやらなければ気がすまなかった。
そしてお
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