て来て、
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「さあお前好いかい、
 すっかりよく熟したのを取っておあげ。
 お※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]ちゃん、私は一寸用があるから此の子と音無しく遊んで居らっしゃい。
 お久美って云う名ですからね。
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と、その娘の肩を※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子の方へ押す様にして引き合わせるとさっさと主屋の方へ行って仕舞った。
 少し極りの悪かった二人は顔を見合わせては罪の無い微笑を交して居たが、
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「取りましょうね、甘い事よ。
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とお久美さんが先に立って歩き出した。
 行く先々には踏台がお伴をしなければならなかった。斯うして二人はじきにすっかり仲よしになって仕舞った。
 一体※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は田舎の子は大嫌いだった。
 無作法に後について来たり※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子の知らない方言で悪口を云ったりするのもいやだったけれ共、傍によるとプーンとする土くささと塵くささが尚きらいであった。一番始めに遊び友達に成ろうとした近所の娘の髪に非常に沢山虫の住んで居るのを見てからと云う者[#「者」に「(ママ)」の注記]※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子はどんな事があっても彼《あ》の子とは遊ぶまいとかたく思いきめて居た。
 けれ共お久美さんは赤くこそあったがさっぱりした髪をして居て傍によっても彼のいやな臭いはしなかった。
 それ丈でもかなり※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は嬉しかった上に会う所が先ずよかったので五分も立たない間に口に出してこそ云わなかったけれ共「仲よしに成りましょうね」と思い込んで居た。
 一時間程をその園の中で二人は此上なく面白い時を過す事が出来た。
 蔓からもいだ許りの実を各々が一粒ずつ拇指と人指指の間に挾んで※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子のはお久美さんに、お久美さんは※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子の口元へと腕を入れ違いにして置いて「一二三」で一時に相手の口の中に透き通る実を弾き込んだり、番小屋の汚れた板の間に投げ座りをしてお互に寄っ掛りながら得意で其の頃して居た口から出まかせのお噺を※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は息も吐かない様に話して聞かせたりした。
 今でも※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は何かの折に葡萄などを見ると、其の時の二人の幼ない様子と、あの甘く舌に溶ける様だった実の事を思い出す事が有る程、嬉しい、まあよかったと思った会合であった。
 其の次の日っから二人は一日の大抵は一緒に伴立って前の小川に魚を取りに行ったり、※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子の部屋で沢山ためて持って居たカードだのお伽噺の安本などを見て遊んで居た。
 乗気になって明けても暮れてもお久美さんが居なけりゃあ生きてる甲斐が無いと思い込んで居た※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は、自分が桃色のリボンで鉢巻の様にはでな頭飾りをして居るのに比べて大切なお久美さんの頭はあんまり飾りないので、持ちふるしたのですまないと思いながら、うす紫に草花の模様のあるのをあげて、貴方も私みたいな髪におしなさいおしなさいと云ってもどうしても聞かなかったお久美さんは其れを桃割の髷前に頭からダラリと下る様に掛けて居た事なども有った。
 自分が折角よい様にさせて上げ様と思うのにきかれなかったり妙な眼付をして、
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「お※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]ちゃんの髪は何て云うの。
 暑いでしょう。
 随分妙な結い方ねえ。
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などと云われると、※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子はすっかり悲しくなって仕舞って、長く遊んで居るときっと又厭になるだろうからもう明日から来ても会いますまいと思う事が十度に一度は無いでは無かったけれ共、一度お久美さんの口から其のまるでお話の様に可哀そうな身上話を聞いてからと云うものは、年に似合わない真面目さが加わって、※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は、どんな事が有っても私はお久美さんを大切によくしてあげなけりゃあならない、そうするために私共は仲よしに成ったのだと思いきめて仕舞った。
 その気持が今日になるまでざっと七年程も確かに取り守られ保たれて来ようとは※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は勿論お久美さんにしろ思いも掛けて居なかった事である。
 ※[#「くさかんむり/惠」、
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