る。
 そこを上手く利用する丈お関は世間を見知った年頃であった。
 所謂正直な者達は難なくその手に乗せられて、多くの者の中には、
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「ほんとにお関さんの様子を見るとどうしたって其那事が有ろうとは思えませんよ。
 一寸でもやましい所のある人があれ程何でもなく落付いて居られるものですか。
 うっかりした事は云われないものですね。
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等と云う者が出来て来ると、皆が皆いつの間にかその気持になって、
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「ほんとに飛んだ噂の立ったものですね。
 一体火元は何処なのでしょうね。
 お関さんこそ好い迷惑だと云うものですよ。
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等と臆病らしく自分等の風評を立てた責任を何処かへ押しつけ様押しつけ様と仕始めた程であった。
 お関はつまり勝利を得たのであった。
 自分の技倆に非常の自信を持つ様になったお関はすべての行為を前よりも数倍大胆に大股に行って行ったけれ共、恭吉に対して丈は何となし一目を置かなければならない何物かが有る様に感じて居た。
 この事のあった間中※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子はお久美さんの行く先をあれ此れと心配し、又今度起った根拠のありそうな噂のためにお久美さんの心が乱される事を案じて居た。
 八月も末になって居るので、もうじき東京へ帰らなければならないのに、思って居る事の一つもまとまらない所か却って種々お久美さんにとっては厭な事許りが殖えて此れから益々辛い事だらけになって行きそうな有様なので、殆ど神経病みの様になって、※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は毎日毎日気を揉んで居た。
 東京からは何とも云って呉れないので、もう十日程の先にせまって来て居る帰京の日を思って※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子はやきもきして居ると、思いがけず好い報知を手にする事が出来た。
「※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子の家と縁つづきになって居る或る華族の小間使いとして話しをして置いたから来て見てもよい。けれ共人柄や何かは私が五六度会った事もあるしするから大抵は分って居る様なものの責任を持つ事になるから四五日家に居させてからよかったら遣ろう」と云う手紙を受けとったとき※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子はどの位喜んだか知れなかった。
 そこの主婦も知り家も知って居る※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は大変に好いと思ったけれ共、お関達の承諾を受ける事は殆ど不可能な事だろうと云う事に思い及ぶと、どうしたものかと云う躊躇が起った。
 そんな事を不用意に頼んでやった事を自分の不行届きとして悔まなければならなかったけれ共、先ず話し丈けも仕て置こうと云うので、その日早速※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子はお久美さんを訪ねた。
 いつもの通り畑道を歩きながら、※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は東京からの手紙を見せた。
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「斯う云ってよこして呉れたんですけれど、
 貴女どうするの、私は好いと思うけれど。
「そうねえ。
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 お久美さんはその手紙をだらりと下げたまんま呆やり立って居たが、
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「私矢っ張り極らないわ。
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と元気なく云って、※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子に手紙を返した。
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「そう。
 でも貴女この間中はどうしても他家へ入る方が好いと云って居たじゃあないの。
「ええ。
「この頃に又変ったの。
「そうじゃあないわ。
「じゃあ、どうしたの。
 私ちっとも分らないわ。
 まあでもね、貴女の気の進まないのを無理にと云うのじゃあないからどうでも介いやしないけれど。
 そいでこれからもずーっと彼の家に居る事にきめたの。
「ええ。
「そいじゃあ何にも此那に騒ぐ事もなかったわね、
 貴女の一番好い様にした方が好いんだから、そんならそれが一番好い事よ。
 でも、まあ少し考えて、あの人にも相談して御覧なさいね。
 どうせ、いけないって云うだろうけれど、
 …………
 貴女今日少し変ね、どうしたの、
 躰が悪いの、ちっとも勢がない、
 顔だって妙にうるんで居る――
「そう、何でもないわ、
 気の故でしょう。
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 お久美さんは懈るそうに左手をあげて顔中をぶっきら棒に撫で廻した。
 いつもになくたるんだ体中の筋肉、力の弱った様な眼の輝きを見ると、この頃の事で受けたお久美さんの苦痛が皆裏書きされて居る様に思えて気の毒で気の毒でたまらなかった。
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「ほんとに体を大切
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