にしなけりゃあ駄目よ、ね、
 お久美さん。
 もっと元気をお出しなさいよ。
 またあしたあたり来るから、もっとピンピンして居らっしゃいね。
 ほんとにどうかして居るわ。
「有難う、大丈夫よ。
[#ここで字下げ終わり]
 お久美さんが気抜けの様な形恰をして居るのを見た※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は家に帰ってからも心配であった。
 種々な想像が浮んで寝つかれない様な夜が明けると※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は大変に朝早かったけれどお久美さんの所へ行った。
 そうして見ると又昨日の不安は一層加えられる程お久美さんは疲れた様子をして居て、今まで見た事もない程の青さでかたくなって居る様だった。
 ※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子は喫驚してどこか悪いのだから早く手あてをした方が好いと云っても只せわしそうに、
[#ここから1字下げ]
「ええ、ええ、
 そいだけれど、大丈夫よ。
 そいでね、
 昨日の事私やめるの、どうせだめですもの。
 だからお母様によろしくね。
「そう、そうきめたらその方が却って好かったかもしれないわね。
 ほんとに体が悪そうよ、見ておもらいなさいな。
「ええ、ありがとう。
 今ね、いそがしいから、悪いけれどもう御免なさいな。
 又いつか会いましょうね。
[#ここで字下げ終わり]
 お久美さんは何だか※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子が冷たいものを吸い込んだ様に感じた微笑を残して意外な顔をして立って居るのを置いたまんまさっさと家へ入って仕舞った。

 恭吉はかなり美くしかった。
 今度の噂が立つと非常に細々とお関と重三との人相書を作って、似て居る点をあげてお久美さんに見せた。信州の家でちゃんとした母親が一人で自分を待って居る事を話した。
 そして※[#「くさかんむり/惠」、第3水準1−91−24]子の行った晩お久美さんは恭吉の影の様になって此の村から去って仕舞ったのである。



底本:「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年12月25日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
初出:「宮本百合子全集 第一巻」河出書房
   1951(昭和26)年6月発行
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2008年5月18日作成
2010年2月26日修正
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