広いところへ拡って、そこには、白い柩とそのまわりに燦いていた焔の色が現れ、無限の哀れを誘われると同時に、それが答えではない、と自身としての答えを執念《しつこ》くもとめている自分に心附くのであった。
朝子が電報をうけとって間もない或る朝、五十ばかりのダーシャという女中が部屋掃除に来て、箒を入口の壁に立てかけると、縞の前垂で手をふき、お悔み申しますよ、とその手を朝子にさし出した。
「弟さんでしたですねえ。大方学生さんでおいでたんでしょうね。こちらでも、もとは随分そういうことがあったもんでしたよ」
そう云ってダーシャは、鎮魂の祈りを誦《とな》え胸の上で十字を切った。ダーシャは字を知らない女であった。日曜の溌剌とした人波を見ていて、朝子はこのこともよく思い出した。そしてダーシャが過去の云いかたでそれを語った、そのことについて思った。
その下宿に滞在する最後の週に朝子は国から電報以来初めての手紙をうけとった。封筒は父の筆蹟であった。なかも父だけが書いていた。お前が知りたいだろうと思うから苦痛を忍んで書くという前置で、細々と前後の有様が述べられていた。保は温室のメロンにつかう薬品で死んだので
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