事は出来なかった。けれども、その死には、心をうつものがあった。精一杯がそこで挫折しているその姿でうつものがあった。二人の作家の二つの死をつなぐ四年の間に朝子は妻の境遇からぬけて、そのときは、いろんな題材でどうやら小説が楽に書けるということ、そしてそれなりに書いているということが果して芸術家としての存在を意味づけるに足ることなのだろうかという疑いを抱く心になっていたのであった。
 三十五歳で命を絶ったこの作家の死は、それ故有島武郎の場合とはおのずから異った内容で朝子に衝撃を与えていた。保は高校生であった。いろいろの生活ではもとより芥川龍之介とまるきりちがうのだが、保の死の報告をうけて日が経つにつれ、朝子の心ではその二つがつながりをもつようになって来た。青いメリヤスの運動シャツなんか無雑作に着て、かぶった帽子を片手で前のめりに押し出しながら何かしきりと論判していた青年が、急に嬉しそうに白い歯並を輝やかしながら笑い出す様子などを眺めていると、朝子は、肉体の青春というばかりでなくそこに見えている歴史の世代の青春のありようというものはどういうものだったろう、そう考えるといつしか朝子の心の奥が遠い
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