、こんな話が、友子さんと政子さんとの間に取換されたのは、ちっとも知りませんでした。
 けれども、それを知らないと云う事が、芳子さんの毎日の行いにどんな関係を持つでしょう。芳子さんは、何と云っても芳子さんである筈です。芳子さんは、相変らず、一生懸命に勉強しました。お気の毒な政子さんには、自分の出来る丈の親切をし、お友達のすべてに、よい仲間となれるように――芳子さんは先生が教えて下さる正しい事は、一つ残さず自分が行って見たいと思っているのです。
 それ故、先生が、背中を丸くしてお席に就いていてはいけない、体に悪い事です、と仰有れば、直ぐ自分の背中に気をつけました。人の悪口や、欠点《あら》計り探す事はいけないと分れば、どんな時にでも、それはしまいと心に願いました。
 人間は、花や小鳥や、天と地とがそうであるように、お互に助け合い、其の人々の持っているよい点を尚お磨きながら、楽しく睦じく、そして正しく暮して行くべきだと云う事を、芳子さんは知っているのです。
 ところが、或る日、五時間目の地理が済んで、皆と一緒に芳子さんも家へ帰ろうとして居りますと、受持の先生からお使が来ました。小使は、先生が御
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