なりたいからなんですって! 学者ですって政子さん、ホホホホだから私ね、女の学者なんてあるものですか、可笑しいわ、って云って上げたのよ。そうしたら芳子さんたら急に真面目くさって、其じゃあ貴女はって仰云るの」
「まあ、貴女何と仰云ったの」
「私? 大きな声で云って上げたわ、私はね、此の学校は好い着物を着て来ても叱られないからよ、って!」
「そうしたら?」
「芳子さんたらすっかり怒っておしまいになった事よ。あの方は全く変人なのね、学校は、着物を見せに来る処じゃあない、勉強する所です、って」
政子さんは、芳子さんの方が正しいと思いました。真個に学校は、呉服屋の広告に使われる処ではございません。けれども、皆より二つ年が上で、お家が大層なお金持で、いつも俥夫が二人がかりで送り迎えをする友子さんは、級中で、一番着物の好きな人でした。
「うちの父様は、日本で沢山ないほどのお金持なのだから私は大人位お金を使ったって構わないのよ」と云う友子さんは人間の生きている間、お金で買える贅沢をするのが、何よりの楽しみだろうと思っていたのです。それ故、友子さんの考え方から云えば、級中で一等立派な着物を着た者は、心も
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