したが、友子さんが、大きな二つの眼で自分を凝《じっ》と見詰めたまま、「真個に貴女だってそうお思いに成るでしょう」とそのようにしているのを見ると、政子さんはつい妙に気の弱い、思った儘を云い切れない気分に成ってしまいました。
「そうねえ……私知らないわ」
 政子さんは、少し耳朶を赤くしました。
「それは遠慮だわ政子さん、一緒のお家にいて知らないなんて、そんな事は無くってよ。あの方は、小学校を優等でお出になったんですってね、そう? 津田さんが答辞をお読みに成ったって云っていらしったけれども、それは真個なの」
「え真個。芳子さんは真個にお出来になるのよ」
「だからあんなに御威張りになるの、おおいやだホホホホ」
 友子さんは、政子さんがもう一遍喫驚して思わず目を大きくしたほど、いやな笑い方をしました。
「あの方は、私、級中で一番嫌いだわ、此の間もね、お裁縫室の傍にね、ホラ南天の木があるでしょう、彼処で種々お話をしていた時、私が何心なく、芳子さんにね、貴女は何故此の学校へお入りに成ったのって伺ったのよ。そうしたらね、あの方ったら」
 友子さんは、チラリと四辺《あたり》を見廻しました。
「偉い学者に
前へ 次へ
全17ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング