かり引離してしまったことではないと思います。御両親は、可愛い政子さんを独りぼっち遺してお亡くなりになる時、どんなに可哀そうにお思いなさったでしょう。又自分達がいなくなってからも、どうぞ正しい立派な、神のお悦びになるような心で、大きく成って呉れるようにと、お願いになった事でしょう。その願いや愛が、政子さんの心の中にみな籠められている筈なのです。
樹木でさえ、親木が年寄って倒れれば、きっとその傍から新らしい若い芽生えが出ますでしょう。まして人の心は樹や草などより、もっともっと微妙なものです。
それ故、政子さんが、お亡くなりに成った両親を思うものなら思うほど、自分の中に遺して行って下さったよい心美くしい心を育てて、真個に立派な人になるように心掛けるのが、第一の務だったのです。
けれども、政子さんは、そうは思いませんでした。先ず自分の可哀そうな身の上に気が付くと一緒に、お友達中から、可哀そうがって同情されたくなりました。
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『まあ政子さんはお可哀そうね、お父様もお母様もいらっしゃらないで……何てお気の毒なのでしょう。淋しいでしょうね、苦しい事が沢山おありになりますで
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