ようとして、政子さんを自分の云い付け通りにさせていたのです。
私共は、じっと静に考えている時には、大抵よい事と悪い事とをはっきり区別して自分のする事を導いて行けます。けれど、多勢の人や、お友達のいる処で、正しい事でも、自分の耳に痛い事を云われると、正直に素直に其の忠言に従う事は出来なく成るものでございますね。
我儘な友子さんは、芳子さんがじっと独りで堪えているのをよい事にして、自分が学校を廃《や》めるまで、二年の間政子さんと芳子さんの仲を悪くさせようとしていたのです。
けれども芳子さんは、どんな辛い時でも、自分の正しいと思う親切は、仮令《たとい》政子さんが其を悦んでも悦ばないでも、行って居りました。
親切は、ひとに褒められる為にする事でもなく、お礼を云って貰う為めにする事でもございません。
よい事は、人の心がしずにはいられない事だからするのです。それは人間が地上に現れた時から与えられた心持の一つでございましょう。長い間の変らない親切は、いつか、真個にいつかか分りませんが、いつかきっとよい果《み》を結ぶものです。どんな力でも打壊す事は出来ません。友子さんが幾ら我を張っても、とう
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