れると云う丈なら、きっとそんなではありませんでしたろう。けれども、自分は出来る丈の親切と、よいと思う事をしてあげているのに、若しかすると政子さんは、自分の志を間違えて考えているのかもしれないと云うことが、芳子さんの心を苦しめます。
 芳子さんは、お饒舌《しゃべり》ではありませんでしたから、お友達の誰にもそんな事は話しませんでした。が、真個に芳子さんは時に情無くなりました。勿論お母様に御話しすれば、直ぐすべては、はっきり解るようになるでしょう。けれども、先に申した通り政子さんは、芳子さんの御両親のお世話に成っている人です。それですから、若し何か政子さんが思い違いしていた事が分ってひどくお小言でも戴くと、只さえ自分が孤児なのを悲しんでいる政子さんは、どんなに居辛く思うか知れません。芳子さんは、それを考えてお母様にさえ黙っていました。
 もう今から二十幾年か昔の女学校などは、近頃育った私共には、考える事も出来ない程、種々不完全な処があったものと見えます。
 お家がお金持だと云う事を、何より偉いと思った気の毒な友子さんは、自分の嬉しく思わない事を云った芳子さんをすっかり憎んで、芳子さんを苦しめ
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