て致しません」
と云いました。
「そうでしょう。なさらないでしょう。けれどもよくお気をおつけなさい」
 これだけのお話で其時はすんでしまいました。
 けれども、それから後、芳子さんには訳の分らない事が沢山起りました。
 時々、友子さんは、何か折があると、妙な当こすりのような事を云って見たり、一緒に遊んでいた政子さんをいきなり、
「貴女此方へいらっしゃいね、私共と遊びましょうよ」
と云いながら、別な方へ連れて行ったりさえしました。
 政子さんは、そんな時後から独りで考えると、真個にお気の毒な事をしてしまった、芳子さんはさぞ淋しかったであろうと思うのですけれども、皆がそうして呉れる時にきっぱりと、
「皆一緒に遊びましょう、芳子さんも一緒に」
と云う丈の勇気は、政子さんにありませんでした。
 学校でさえそう云わなかったのですから、家へ帰ればなおそんな事を云い出す時が見付かりません。友子さんや、友子さんのお仲よしの人々が多勢で来ると、政子さんは自分の思う通りには何一つ出来ない心持に成ってしまうのです。
 政子さんが思った通り、芳子さんは勿論淋しゅうございました。只一緒にいる政子さんを連れて行か
前へ 次へ
全17ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング