現実だけは、はっきりと学びとった。
 ここに集められているすべての文章は、一貫して一つの意志をもっている。それは、わたしたちの貴重な、そして誰にとってもかけがえのない一生を気分や現象で、はぐらかされ、かどわかされてしまわないようにという決心である。歴史の進みゆく本質と自分の生活とをまじめに、がんこに見くらべて生きてゆく、ほこりたかい人間としての根気を失わないように、という願いがある。現象から本質を洞察する気力にみちた精神の習慣へのよびかけがある。精神と肉体とが一致し、感情は理性とともにある行為の美しさへの招集と、善は美であり得るという事実についてのいくとおりかの例証がある。
   一九四九年八月一日

   追記

 この集の編輯が終り、再校が出てしまってから、ふとわたしの気にかかることができた。それはこの集に収められている「若い女性の著書二つ」のなかでふれている野沢富美子さんのことについてである。
「煉瓦女工」が出版された当時、商業出版の上で若い作者が不安定な利用にさらされていた当時、わたしは「若い女性の著書二つ」のなかで、彼女のおかれている客観的主観的な困難にふれたのであった。その
前へ 次へ
全8ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング