は涙も出ない思いをかみしめながら、それでもなおわたしたちの頸すじは明日の希望に向ってもたげられている。それは、決してわたしたち女性がおろかな生物だからではない。生の根源というものは、どんな歴史の現実に深く根をおろしているものであるかということの証拠であると思う。小船は、一つ一つの波にはゆられているが大局からみればちゃんと一定の方向で波全体を漕ぎわけてゆく。そのようにわたしたちは、起伏する社会現象をはげしく身にうけながら、そこからさまざまの感想と批判と疑問とをとり出しつつ、人間らしい人生を求める航路そのものを放棄してはいない。昔の女性が世間智でとりあつめた常識は、すでにやぶれた。身のまわりに渦巻く現象が新しい要素を加えてめまぐるしくなればなるほど、わたしたちは、そのめまい[#「めまい」に傍点]を起させるような現象の底にある社会的動力をつかんで全体を理解しようと欲するし、その動力の本質を、よりよいものへ、より人間らしい方向へ働き得るものに発展させ改変させようと欲している。現代のすべての女性はおそろしく高価な教訓によって、一身の幸福といい不幸ということが、社会事情との連関なしに語れないという
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