子学生のアルバイトの問題。職業と家庭生活との矛盾の問題。最悪な人民経済の事情から女性は家庭からどしどしはたき出されているのに、生活を求めて女性がたたかってゆく社会では、昔ながらの封建性が克服されていないばかりか、数年前には知られなかった複雑微妙な堕落のモメントが、女性の一歩一歩に用意されてある。
戦争の時代にかかれた婦人についての評論や感想は、時間的にいって、自然きょうのそれらの諸現象にはふれていない。軍部の煽動にのって若い女性が、明日にかくされている生活の破滅に向ってヒロイズムでごまかされないように、戦争的美名にかくされた資本主義の搾取の現実を見とおすように、荒くれたかぶった世間の気風のうちに、ひとすじの人間らしさと、その発展のための努力を失うまいとしているけなげな女性たちの心の友であろうとして、この集におさめられている文章はかかれた。
そういう面からみれば、これらの文章は、きょうのものではない。けれども、わたしたちがきょうのこの紛糾した苦しい矛盾をしのいで、将来によりましな社会をうみ出してゆこうとする気力と行動とを失わないでいるのは、何の魔力によってだろう。苦しみながら、ときに
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