と夫婦でない、結婚生活でない共同生活を十三年営んでおられる。
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「苦しみぬき、もまれぬいてから、人生にはどんなにしても手のとゞかぬ不幸があり、どんなにもがいても、ぬけきれない苦しみがあることや、それに対する諦めや、そしてまたそのために人をうらみ、世をうらむ心を失ってしまったことに気がついた。静かなる愛、それは月の光をすくったような美しくきよらかな母の愛だけが今の私にはのこされている。いずこかに在る徹也よ。母はかくて母の清浄を守り、あなたのふるさとなる躯を、病と貧との中で、清く静かに生かして来た。これからも私に変りはないであろう。」
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『静かなる愛』はそういう特別な女の心、母の心の露が生活の朝夕にたまった泉のような詩集である。病みぬいた魂の平安と感じやすさというような趣のみちた作品である。特に、『静かなる愛』の後半には、そういう一つの境地に達した人生感、人生への哲学が表現されているのだが、私は、それよりも女の読者の一人として、前半にあつめられている詩のいくつかにうたれた。

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生れて何も知らぬ吾子の頬に 母よ 絶望の涙を
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