兄達は父と同じ「男」だから、母でも女中でもまるで違った扱いをします。父親の命令で唯の一つも実行されなかったことのないのを見知っているロザリーは、或るひどい嵐の晩、こわさで顫えながら、
「お父さんに行ってやめさせて頂いて頂戴よ」
と云って、姉達に「お馬鹿さん!」とたしなめられた程でした。
 この男性全般に対する驚歎の感じは、彼女が大きくなるにつれ、少しずつ色調を更えました。彼女は、父や兄達が下らないことで勿体ぶり威張るのを見たり、場外れに大仰なことをしたりするのを見ると、妙にばつの悪い眼をパチリとやらずにいられない擽ったさを感じずにはいられなくなりました。
 この心持は、もう暫く経つと、男と云うものは、偉いには偉いが、妙な、邪魔っけなものだと云う概念になりました。
 誰にとっても男は偉く思われている証拠には二人の姉、フロラとヒルダとは大仲よしで、ひまさえあると、何かしら男のひとのことについて、熱心に喋っています。ロザリーは、学校を終ったばかりのヒルダから初歩の学課を習い始めているのですが、ヒルダは、ロザリーにお稽古帳をあずけたまま、姉のフロラと窓際で、ひそひそ何か話しています。ロザリーは
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