過してしまいました。舅の死で目を覚し、万事新にやりなおして世間に出ようと努力したが、同期の友人達には、追いすがる余地もない程時代にとりのこされて仕舞いました。
不平は、彼を感情的ななかなか威張る父親にしました。さびれた、融和しない教区中に友人もなく、家族に満足も見出せない孤独な彼は疑もなく一種の悲劇的人物です。
けれども、見方によっては、ロザリーの母親の生活の方が、遙に憐れな、自覚されない点で一層悲劇的なものと云えました。彼女は、娘の時は父の為、成長してからは不平満々な良人の為、母となっては、数多い子供達の為に、自分のあらゆる希望要求を犠牲にしつくし、いつもおどおど労苦の絶えない女性でした。ロザリーが物心づいて第一に感じたのは、男の人と云うものは何と云う偉い素晴らしいものなのだろう! と云う驚歎でした。びっくりするような思いがけない事、珍しい不思議なこと、それは皆、父親か二人の兄達――男――と云う者によってなされます。
家中の女、母親も、アンナ・フロラ・ヒルダと云う三人の姉達も、女中も、皆、その驚くべき男の人達の為ばかりに何時も働き、用事をし、心配をしている。同じ同胞でも、二人の
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