いることになります。
 作家が女性であった場合と、男性であった場合とで、又作品を貫く感激も違って来るでしょうが、それがとにかく刻下の実際問題にふれていることによって現れる切実さだけは、共通に認め得る点でしょう。
 先頃、エイ・エス・エム・ハッチンスンと云う作家が(男です。)“This Freedom”と云う長篇小説を発表しました。直訳すれば「この自由」と云いますか。
 この作家の名は、その一つ前に書いた「若し冬が来るなら」と云う題の作品で俄に知られるようになりました。日本でも多くの部数を売ったそうですが一九二二年に発行された「この自由」は、上述の女性と職業の問題を骨子としたものです。
 純文学的の立場からではなくその小説を一読した女性の一人として、大体の筋の紹介と、簡単な感想を述べたいと思います。
 ロザリーは、英国のイボッツフィールドの教区長の末娘に生れました。
 父親は、ケムブリッジ大学を卒業し、ひとから未来を属望され、自分も大いに活動する気でいたところが、彼の盲滅法な性質から、深い考えもなく或る私塾を開いている牧師の娘と恋に落ち、結婚したまま有耶無耶《うやむや》に六年間舅の助手で
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