い声は猶も吹聴します。
「お稽古! お稽古! かあちゃまのお膝で、お稽古!」
*
きっしり詰めた三百十八頁の間に、ハッチンスンは、一人の女性の悲劇を書きました。
近代の人間らしく、彼は物語をまるで希望のない悲劇のままでは終らせませんでした。一転筆の調子を更えて、読者に、暖い、楽しい家庭の光景を示しています。けれども、その幸福、光明は、幼いロザリーが叫ぶ「かあちゃまのお膝で」との一言に、無限の意味を含めてかけられているではありませんか。
ドラに死なれた時、「私が天の命に背いたことがあったのです」と歎いたロザリーの言葉を私共は忘れません。
作者は、かなり鋭く女性の生活慾を理解しています。結婚生活に対する男性の観かたと女性の見かたとの違いなども、本当に女の心に立ち入って、説明しています。
題材がこう云う種類な故か、描写の溌溂さはやや欠け、説明に堕しすぎた憾はあっても、相当深くつき入って女性の問題を解剖した後、結局来たものは、今まで多くの作家に扱われた通り女の運命は、子供を守り育てること。と云う結論です。――少くとも子等を持つ者は。
作者が、海の広い面に向
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