って落ちて行く翼の破れた大鳥の意匠をその本の表紙に使った心持を、私共は何と解釈すべきでしょう。
申さずとも明です。
然し、現代の女性一般の胸の裡には、そのロザリーの落付き得た生活様式とは何か異ったものを求める火が燃えているではありませんか。ロザリーが、小説中の人物であるとしてさえ、家庭と自己の職業を完全に両立させ得なかったことを、ひとごとでなく惜む心持があるではありませんか。
私共は、自分の立場として、この問題にどう云う解答を、事実に於て与えなければならないか。大きな大きな宿題です。
現代数万の女性は、いやいや母になり、万已を得ず生れた子を育て、傍ら、自己発揚の機会を奪われている不平を述ております。
これは、どちらに対しても――自己と云う箇人に対しても、子供に対しても、無良心極る冒涜です。
ロザリーは、職業の種類の選択を誤った為に「母の心」とよい調和を保たせ得なかったのでしょうか。
或は、ロザリーと云う名は、現代の女性一般に与えられた名で、近代社会が生んだ女性の性格、徳性の欠陥としての事業熱、対社会の活動慾等の、消長史と見るべきでしょうか。[#地付き]〔一九二三年十二月〕
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