挙されたのを読むと一寸出て来ると云ったぎり、もう再び生きた姿を両親に見せませんでした。彼は、警察署に行くと、捕えられて来ていたその男を死ぬ程|擲《たた》きのめし、自分は程近い地下鉄道に轢かれて命を落してしまったのです。
ああ神様。ロザリーは良人に云いました。
「子供達が悪かったのではありません。私が天の命に背いたのでした」
彼女は、ドラの没くなった翌朝、フィールド銀行に辞職届をかきました。
二人の子を失い、一人の子も恥辱の裡に持つハリとロザリーとは、魂の底から互の心を感じ合いながら擁き合いました。
これほどの苦痛も、二人で耐えてこそ耐え得ました。
今は、総てがよくなりました。ハフは出獄して、カナダにい、心を入れ更えて家郷への音信を怠りません。彼が、虐待し、早死した妻との間に生れた娘のロザリーは、名づけの祖母を母と呼び、ロンドンで一緒に暮しております。
小さいロザリーは、三度の御飯も皆と一緒に食べるし、褓母や家庭教師と云うものも持っていません。
大喜びで朝飯をしまうと、ピョンピョン片足で飛び廻りながら、可愛い声を張りあげて呼び立てます「お稽古! お稽古!」
彼女の子供らし
前へ
次へ
全23ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング