は、そう云う境遇にいる男の人に云うでしょう。
『おい君、自分の大望を取りあげ給え。君は男だ。我と云うものを考えなけりゃあいけない』これが人々の云うことでしょう、ね、私の云っているのもそれです『私は女だ。私は自分を考えなければならない』」
良人は、意味をこめて訊きます。
「そして、自分と云うものを考えてくれるか?」
「私は毎日――考えています」
このような対話が良人と交されているうちにロザリーの心は段々しっかりして来ました。彼女は、自分の心の中にある感傷的なものと敏感さとの区別を見出しました。これまで彼女を成功させ、幸福であらせたのは、そのときの種々な状態に下らない感情はぬきの、思慮ある判断力で対したからでした。ロザリーは、自分が自己の生活や幸福を、家庭と仕事にひかれる半々な心持で、破滅に陥れそうになっているのに心づきました。
ロザリーが、これ等のことに心を悩している間に長男のハフ、長女のドラは、悦び勇んで寄宿学校に行ってしまいました。いよいよ彼女の心はきまりました。
良人は依然として「子供達は家庭に対して権利を持っている」「婦人の家庭に対する分担持場が違って来たら、世の中はどう
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