若し二度考えたとしても、あらゆる意見習慣が彼にこの権利のあることを告げるでしょう。それが女だとなると、だから――もうそれが理由です。女だ、だから、いけない。それが理由の始りで終りです。女、それ故いけない。ああ、それじゃあ女に可哀そうです」
 良人は弁駁します。
「総ての意見、すべての習慣が男にそうしろと云う? 違う、違う。貴女は男をあまり勝手のきく者に見ている。若し彼を反対の方に引とめる義務を持っているとすれば、その男は当然そうしもしないし、そうしろと云われもしやしない」
「けれども、そこが大事な点ですわ。男のひとは決してそんな義務を持ってはいないでしょう。男がいつでも自分の義務と大望とをうまく両立させているのは明かですことよ。本当に、それは、注目すべきことです」
「ふむ。――それなら別な風に考えて見給え。その男にとって、仕事に出る必要なんかはちっともなかったとして見給え。その男が出かけることでは何もおかげを蒙らないが、却って家にいると云うことには、多くのものが懸っているとして見給え。同じことになるじゃあないか」
「ああ、それはそうです。けれども、それも結局前と同じことになります。ひと
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