白銀のうろこのかがやいた時女人魚の体はもう波とすれすれのところ頭とか美くしいかおはあたたかい日の光にまばゆいほどかがやいて居ました。スーッスーッと渚近くよってその大きな岩のかげに身をひそめて人の群の高いさざめきやかすかなきぬずれの音をきいて居ました。恋によったようにうっとりと魂をうばわれたようにボンヤリとしてその様を見ほれて居ました。高らかに笑う女の声も今まできいたことのないものでしたし、うすい衣の裾のヒラヒラ胡蝶の様になるのも今までは見たことのないものでした。女人魚は美くしさに、うらやましさにその女達の動くように自分も身をもみながらどうぞして人間の仲間に入れるようにとねがって居ました。今まで光線のよわい海の底の中でうす絹ではりつめたように育って来たこの女人魚のはだにはあらわな強い日光はあんまりまぼしすぎ、つよすぎました。女人魚の心は段々ボーッとそして甘い気持になりました。その強い日の光はとうとう海の美しいたとえない花をしぼませてしまいました。
 大きな岩によってうっとりと、見ほれききほれて居るように美くしいしなやかな姿をした女人魚にはもうよんでこたえる魂と云うものがありませんでした。
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