ってたえず銀色の光をはなして居るうろこをしっかりとまとって、赤いさんごの林の間、青こけのむした大岩の間、うす紅の桜海老、紫に光る海魚等の間を黒髪を長く引いて遊んで居る様子はこの内海をかざる花でした。けれども海の王の年を経た海蛇はなぜかこの人魚の陸近く遊ぶことをゆるしませんでした。まだ若い何事によらず血をわかす女人魚はまだ一度も見たことのない陸と云うものをいろいろに想像してはなつかしがって居ました。或る時、春の日の光りの暖かさが海の底までしみ通るような日にこの美くしい女人魚は陸をあこがれながらこの美くしい姿を思うままにうらやませながらとある岩の上に泳ぎつかれた体をやすませて居りました。そのまっくろな可愛い形をして居る瞳をクルリクルリと動かせながら四辺を見て居ましたがフト先を見るとそこには陸の上の人影や草木の色や家の色までがすいて見えて居ました。「オヤ」女人魚は驚きと喜のまぜこぜになった小さい声を出して叫んで自分の目をうたがうようにジッとそこを見つめて居ました。
自分と同じ名の女と云う名の人間は白や紅や紫のやのうすい衣をまとって二本の足でかるく歩きまわって居たり草はみどりの葉の間に五色の
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