のを見るとあんなにはなやかに栄えて居た姿とあべこべに尼の姿になって出て来て「日頃の罪はこの姿にめんじておゆるし下さいませネ、もしゆるすと云って下さるなら皆様と同じ庵室で念仏して御一所に後の世の幸を祈りましょうし、まだゆるさないとおっしゃるならばこののちどこへでも足にまかせて迷って行ってどんな岩のかどでも苔の上でも松の様にたおれてしまうまでも念仏してみだ三尊の来迎にあずかりましょうから」と涙をとめどもなく流して云ったので義王「マア、お恥しい、私は貴女の心の底のそれほどまで御きよいのを一寸も知らないで、今日まではこれほどまでお思いになる方とは一寸も存じませんでしたのに、今までの事はみんな浮き世の仕業でございますもの。もう必[#「必」に「ママ」の注記]して人のうらみなんかは思いはいたしません。自分の身のつらさを知るはずだのにどうかすると貴女の事が忘られないで心にかかって今の世も後の世も御仏に仕える事はじゅう分に出来かねるように思われて居りましたのに貴女は何にも後に思をひかれないでとしもまだ十七だと云うのにこの汚れた世をそむいて清い世の中をおねがいになるお心こそほんとうの道心者でいらっしゃいま
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