身をへだつるのみこそおろかなれ
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と二三度うたいすましたので、人々はみんな可哀そうに思った。入道相国は「よくうたった。又舞も見るのだけれ共一寸さしつかえが出来た。これからは呼ばないでもふだん来て舞をまい、今様でもうたって仏をなぐさめてくれろ、ヨイカ」とおっしゃる。義王館にかえっても障子の内に身を伏して泣くよりほかはない。
親の云いつけにそむくまいと思って又苦しさをしのんでいやな所に行けば坐敷さえ下げられた苦しさ、なお此の世に生きて居たら、又、此のような苦しい事を見ききしなければならないだろう。こう云うついでに火の中か水の底へでも入ってしまいたいと悲しんだ。姉が身をなげ様と云うと妹の義女も身をなげ様と云うので母の閉《トジ》は「ホンニうらむのももっともだけれ共この間までは入道殿はそれほど情知らずの人とは一寸も思われなかったんで、いつもいつも教えさとしてやった事が今となって見ればほんとうに悪るかった。姉が身を投げると云えば妹も身をなげようと云って居るのにこの年とった私一人のこってどうしたらいいだろう。だから私も一所に身をなげる外しかたがない。もしまだ死ぬ時も来ない親
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