びお目にかかる事なんかあるもんですか」とまだ返事をしない、母は重ね「男女の縁と宿世の縁は今がはじまった事じゃあないじゃありませんか。千年までも末の世までもと契ってもやがて別れる間もあり、又只一寸と思いながら永くはてる人もあり、今世の中で一番あてにならないものは男女の間だと云って居るじゃあありませんか。まして御前達は遊者の身で一日二日呼ばれて居てさえどんなにか有難い事だのにまして此の三年もの間呼ばれて居たのだから、後の世までの思い出にこれにすぎた事はないじゃあないの。呼ぶのに来なければ考えがあるとおっしゃるのは都の内を出される事はあるかも知れないけれ共まさか命をおとりになるほどの事はありますまいが、たとえ都を出されてもお前達はまだ若いからどこに行ってもくらすにはこまらないだろうけれ共私は年をとった身でありながらなれないまずしいくらしをすると思えばそれだけでも悲しいのだもの。只、なんにもおねがいがないから私を都の内で暮す事の出来る様にして下さい。それが私の今生後世の孝行ですから」と涙を流しておっしゃったんで「そんならば行ってまいりましょう」と泣く泣く立ちかけたけれ共一人で行くのも何だか変だ
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