、或は使者をよこすものがあったけれ共義王、「今さら面目なくて人にあって遊びさわぐ事は出来ない」と云って手紙をとりあげて見もしなかったからまして使に会ったりなんかする事はなかった。そうこうして居る内にその年もくれ春の頃にもなったんで入道は義王の所へ使をよこして「義王、その後に別に何事もなかったか。仏があんまり退屈そうに見えるから来て舞でもまい、今様でもうたって仏をなぐさめてくれ」と云ってよこしたんで義王はあんまりの事に返事もしない。入道は又「サア、義王、なぜ返事をしないのだ。来ないのならば早くその事を云ってよこせ。入道も返事によっては考えがある」と云っておよこしになる。母の閉《トジ》は「あれ程おっしゃるのにナゼ御返事をしないんですか」「上ろうと思えば今に上りますと申しましょうが行かないのに何と御返事を申しましょう。呼ぶのに来なければ考えがあるとおっしゃるのは都を追い出されるのかそれでなければ命をおとりになるかこの二つにはすぎないでしょうに、たとえ都の内を出されても、どっかには落つく所がありましょう。又、たとえ命をとられても何でおしい事があるもんですか。一度、いやな物に思われて二度とふたた
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