手なので、何でまいそんじる事があろう。心も飛んで行きそうにまった。見て居た人はだれもおどろかないものはない。入道は舞姿をめでになったと見えて仏に心をうつしてしまわれた。生れつき此の入道と云う人はせっかちだもんで舞の終るのがもどかしく思われたと見えて始めの和歌一つうたわせまだ終りのうたのおわらない内に仏を抱いて内に入ってしまわれる。仏御前の云うには「私はもとより推参ものですげない御言葉をいただいてかえりかけたのを義王御前の御口ぞえでようやく御呼び下さったのでございますもの、御心にかないましたなら又御呼びいただいてまいりましょうから今日はただおいとまを下すっておかえし下さいませ」と云うと入道「ナンデ、かまうものか、何でも浄海が云うままになって居ればいいんだから、だけれ共、義王に遠慮するならば義王の方をひまやろう」と云えば「ソレソレ、それがいやなのでございます。私と一所に居るのでさえもどんなにか恥じ、半腹痛く思うのにそんなに義王御前を出そうなんかとおっしゃってはいよいよでございます」と云ったけれ共何とも云わないで「義王、早くかえれ」と云う使が度々三度まで来たので義王少しも身を休めてなんか居る
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