遠ざかったしずかな所で念仏するのには一寸もじゃまではございませんがあきもあかれもしないで別れた女に住居を見つけられてしまいましたからたとえ今夜一度だけはこのようにかえしましたけれ共またしとうて来たりするときっと心が動くでございましょう。そうするとこまりますから御暇を申しあげます」と云って泣く泣くそこを出て高野の御山にのぼって法憧院梨の坊と云う所に行すまして居らっしゃった。横笛もそうやって居る時でないから都にかえり様をかえ奈良の法華寺に行すまして居ると云う事をきいたので入道は此の事をきいて大変よろこび高野の山から一首の歌を送られた。
[#天から3字下げ]そるまでは恨みし事どもあづさ弓 まことの道に入るぞうれしき
 横笛の返事
[#天から3字下げ]そるとても何か恨まんあづさ弓 ひきとどむべき心ならねば
 横笛は思いのつのったためか程なくはかなくなってしまった。それをきいた入道はますます行いすまして居らっしゃったので父も不幸をゆるし、したしい人は高山の御山の聖の御坊と云ってもてなして居るし、もとのみを知って居る人は瀧口入道と云って居た。其後三位の中将が瀧口をたずねて行って会って見ると都に居た
前へ 次へ
全52ページ中31ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング