が申して居た。葵の前がはかなくなってからは君は始終葵の前の事許り思って居らっしゃってとうとう御悩遊すと聞えたので中宮の御方の御所より御看病の女房達を沢山およこしになったと云う事である。
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  上どう[#「上どう」に二重傍線] 上童、うへわらはと云ふべきのを此頃は字音のさへに称へしなるか或は原書に上童と書きてありしを仮名にどうと書きあやまりしにもあるべし。上童は少女の中宮などに奉仕し又は女房にも召し仕へしなり。
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     小督

 葵の前の事があって主上が大変御歎きになったので中宮から沢山の御看病の女房をおよこしになった中に、桜町の中納言*重教の卿の御娘の小督の殿と云って禁中一の美人でその上、二人とない琴の上手な女房が居らっしゃった。その頃まだ少将であった冷泉の大納言隆房の卿が節会に参内せられた時、一目見て恋された女房である。始めは恩をこめた歌心をこめた文を送られたけれどもその数はつもるばかりでなびく様子もなくて長い間たったけれ共女と云えば情にもろいものだと云うその心をこの女房も持って居られたのだろうか、とうとうなびいておしまいになったの
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