入りになるのであろう」とかなしく思って「今度一の谷で討死をなされた御方の北の方の御歎はどなたも同じでございます。けれ共皆様は御様を化えさせられてしまいました。六道四生の道は別々でございますもの、貴女様もどの道へか行らっしゃって上様と同じ道を行らっしゃるのはむずかしゅうございましょう。それに又、身重の人の死んだのは殊に罪深いときいて居ります。身々とも御なりになったのち幼き御子様を御育になって亡い人の形見と御らんなってまだそれでも御心がいがなかったら此のみの様をかえ亡い人の御菩提を御ともらいなさいませ。たとえ千尋の海の底におしずみになるのでも私をつれておいで下さいまし――」と様々に悲しみなげいたので北の方はそのように云われて悪かったと思われたと見えて「ほんとうはそんな気はないけれ共あんまり思がつもったのでつい、云ったので何にもそんなに驚いたり泣いたりする事はありませんよサア、夜もふけた様だからねましょう」とおっしゃると乳母の女房はうれしがって北の方のわきにねてしばらくまどろんだと思う頃北の方は起きなおって舷へ出られた。漫々とはてしない水の上だからどこを西とはわからないけれ共月の入りかけて居
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