まだ足りない。工場によっては苦しまぎれに、賃銀をよくして労働者を集めようとする。そこで、一九三〇年の冬に大清算された「飛びや」が現れた。つまり、五十|哥《カペイカ》でも多い方へ多い方へと、工場から工場へと飛びうつってゆく飛びや[#「飛びや」に傍点]労働者だ。
短篇小説は、職場の意識の低い男が飛びや[#「飛びや」に傍点]になりかける。それを、若い共産党青年《コムソモール》の仲間が改心させるという主題を扱ってる。
「ふーむ。主題はいいね!」
タラソフ・ロディオーノフは、さっき文学衝撃隊組織について論じてたときよりはグッとくだけて、親しみ深い同輩の口調で云った。
「われわれの日常の中からとられている、これは健康な徴候だ。――君のこの前の作品、あのホラ、染めた髪の女が出て来る――少くともあれとは比較にならないね」
みんなドッと笑った。云われた当人は、少し顔を赤らめながら、やっぱり大笑いした。
「だが、材料はまだ整理が足りない。ゴチャゴチャしている。いらないところをどうすてるかということは――君、ジャック・ロンドンを読んだかい?」
「読みません」
「ぜひ読んで勉強したまえ! われわれは、わ
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