れわれの前にいい仕事をして行った者の技術は一遍検査しておく必要があるよ」
 手をあげて、一人の青年労働者が、その短篇の批評を追加した。「ハッキリ今憶えてないが、言葉が少し労働者らしくないと思うんだ。例えば、そん中で、マクシムが、俺はあっちの工場へ行くかもしれねえって云った時、ワーリャが訊く。何故だ? するとマクシムは、あっちの方が得だ、って返事してる。労働者の、ましてマクシムのような男は、そうは云わないんだ。『あっちは三十五哥多い』そういうんだ」
 赤い襟飾を結んだ年上のピオニェールが、椅子なしで、卓上へ肱をつき、日やけのした脚を蚊トンボみたいに曲げて熱心に一人一人の話し手の顔を見つめながら聞いてる。
 今、詩が朗読されはじめた。
「俺は、今日はじめてこの研究会へ出たんだが……」
 そう云ってその黒い捲毛の青年労働者が手の中に円めている紙をひねくったら、タラソフ・ロディオーノフが
「いよいよ結構じゃないか! さあ、聴こう!」と陽気に鼓舞した。
 それで、読みはじめた。
 羽目へもたれて床《ゆか》に坐ってる連中も、膝を抱え森として聞いている。
 工場の内庭に面した方の窓全体に、強いアーク
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