ゆくかという点――結晶点が、注意ぶかく社会的にとりあげられていいと思う。
第二次大戦中、アメリカの前線報道員として命をおとしたアニー・パイルのほんとに民衆の友としての働きかたは、これも現代のヒューマニティーの花であった。アニー・パイルも、こんにちの階級社会の紛乱とそのわれ目におちこむ多数の人々の不幸、不幸になってはじめてその人にとってその不幸の性質が理解されるような不幸について、深い理解と同情をもつすぐれた人々の一人であった。そして、一握りの人間が、決して自分の靴の底皮をぬらすことなくともかく生きていなければならない人々の大群を不幸に追いこんでいる現代の戦争というものの本質について深く知っていた。
ハーシーの「アダノの鐘」にもこの感情が主調をなしている。ジョン・ハーシーという人にあらわれているアメリカのプラグマティズムのプラスの面が、この作品に人間らしい生命をふきこんだ。天津に生れ育ったアメリカ人のハーシーが「アダノの鐘」の主人公としてイタリー系のジョボロ少佐をアダノの市に見出していることには意味がある。ハーシーにとって、アメリカが国際的国家であることをよろこび得る理由は「ジョボロ
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