神は、東洋にとって貴重なだけではない。アメリカの常識の良識と誇りあるべき民主主義にとって、今日ほど貴重である時期はない。なぜなら現代のアジアは何かの権勢によって単に処理されるべきところとして存在しているのではないのだから。
 ジョン・ハーシーが、天津に育っている外国人の少年として子供時代から周囲の生活を観察し、それを、あるままに理解しようとして来た心の習慣は「ヒロシマ」の成功の可能をもたらしている。「ヒロシマ」にたたえられているヒューマニティは人間の不幸、悲惨がどういう程度のものであり得るかということを深く理解している一人の男が、その目にあった人々によって語られる物語をきき、そこにあった状況としてこの真実性とそのような状況にぶちこまれて生きるために闘った人間の真実――ヒューマニティを尊重して正直にそれを整理し記録しているところから生れている。その過程でハーシーは、日本人の習慣的な感情、天皇というものに対して植えつけられている錯覚的な信頼の表現などさえも、切りすてていない。(頁一〇四―一〇五)
 新しい文学を語るとき、作者のヒューマニティーがどのような角度で題材そのものの人間性に結合して
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