いうのか? え?」
 インガは、予期しない光景に驚いている皆の前で自制を失わず、はっきりした声でルイジョフに迫った。
「誰と? どこで?」
 ドミトリーが、何か云おうとした。
「どうしてあなたが出るんです? ドミトリー。私は何にも支持して貰うに及ばない。」
 彼女は、つづけてきびしくルイジョフに云った。
「イグナット! あなたは自分の云ったことを理解していますか? 私はあなたに、自分の云ったことを事実で証明するか、さもなければ、誹謗した責任を負うか、どっちかさせます。私は命令する――分りましたか? 命令する! この事件を監督委員会へ持ち出しなさい。どっちが正しいか、そこで話しましょう。」

          二

 工場の労働婦人にしろ、幸に好きな対手を見つければ互に晴れやかにその生活を楽しんでいる。婦人工場管理者だけは、恋愛してはいけないのであろうか? そんな理屈はない。
 インガはドミトリーを本当に愛しているのであった。
 彼女ほど勤労者として技量があり、美しければ、自然崇拝者は少くない。例えば、工場技師のニェムツェウィッチなどは、折さえあると、インガに云っているではないか? ―
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