をインガは、知らない。ソモフやドミトリー、その他多勢の労働者にとりまかれ、活々した明るい声で計画を、今度工場で拵えようとしている服の型について説明している。
「――我々は、政治や経済では新しい道を発見して行くのにどうして日常生活では、いつもヨーロッパの後ばっかり追っていなければならないんでしょう? どうして私達は、我々の日常生活があっちよりも良くて、合理的で美しいって云うのをこわがってるんでしょう。何故ヨーロッパの型ばっかり買ってなけりゃならないでしょうか?
私どもは芸術家にたのんで同じ値段で、ずっといいソヴェト型がつくれるのに。」
ルイジョフは、ズボンのポケットへ両手を突こんで、インガの積極的な研究的な提案を皮肉った。そして、彼女に当てこすって、傍にいるソモフに大声でからんだ。
「――だが。こりゃ正しいことかね? 組織はここへ、工場へ仕事するために彼女をよこした、ところが、彼女は……」
インガは思わずきき咎めた。
「何です?」
「薄暗い隅っこで若僧といちゃついてる!」
ルイジョフは、居合わせる多勢の労働者に向って叫んだ。
「見たんだ! 俺は自分で見たんだ! これが、正しいって
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