「我々の日常生活ん中で、貴様みたいな見本は――第一の敵だぞ。お前ん中からそいつをたたき出してやるぞ!」
工場管理者代理ルイジョフがインガに対してもっている反感は、しかしもっと複雑な内容をもっているのである。第一、自分は二十六年間生産に従事している労働者じゃないか。しかも四年間は、眠る間だって銃を放さないような生活をして来た。インガが何だ。腐ったインテリゲンツィアの女じゃないか?(糞っ! 今もソモフにそう云ったら、奴は貴様こそ偏見で腐ってると云った。そして、インガの功績を逆に説法した。彼女が素敵な組織者であること、工場の生産率を高め、生産品の原価を低めたこと。意志が強固で深い知識をもっていると云った)女! インテリ出! それだけでいい加減我慢出来ないところへ、インガは労働者で工場委員長のドミトリー・グレチャニコフを愛している。ルイジョフはそのことから引きつづいて自分を追っぱらって、ドミトリーを工場管理者代理に据えるだろうと、勝手に疑ぐっているのであった。
クラブの休憩室の物かげで、ドミトリーとインガが互にぴったりよって何か話していた。それをちらりと見たのはルイジョフである。見られたの
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