んざ……そういうなあ……ふむ、女ってものはそういうもんじゃねえんだ。」
ソモフは、出身から云えばボルティーコフと同じ労働者である。彼は、年こそ六十にもなっているが、インガの勤労者としての価値、及び解放された女がどうでなければならないかという一般の原理に対しては、いつも公平な立場で、社会的に理解し先進的な見解を失わない男である。
「――彼女がどうだっていうんだ? 仕事のやりかたを知らないってのかね? それとも――その全然人間じゃないってでも云うか?」
ボルティーコフは髯をひっぱりながら、
「何て云うか……勿論俺あここの主人じゃあねえ。工場はお前さんのもんで、お前さんが責任を負ってるんだ。けれど、俺あ、職長として実際の経験から云うのさ。女は――女さ。女んところにゃ、あらゆるでんぐりけえった空想があるんだ。」
ソモフに、たしなめられると、ボルティーコフはふてくされて悪態をついた。
「工場そっくり女にかきまわされて――まともな人間の住む場所がありゃしねえ! モスクワに行くんだ俺あ。そうなりゃ、スカートはいた職長が見つかるだろうよ!」
「追っ払っちまうぞ!」
怒鳴り出したのはソモフだ。
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