ィーラとドミトリーのところへ、インガが入って来た。つとめて落付いた顔つきで、快活にインガは云った。
「すっかりうまく落つきましたか? 何て簡単なんだろう。素晴らしい!」
 率直にグラフィーラが遮った。
「私は自分のところへドミトリーをひっぱりゃしないです。彼は自分のいいと思うところに居りゃいい。」
 一層飾り気ない真心で彼女はインガに云った。
「――どうして、あんた、そんな工合に云いなさるんです? まるで私が涙の味も知らず、あんたの苦しみを見もしないように。私は、あなたでさえあれだけ愛しなすったかどうかあやしい程ミーチャを愛してる。けれど、こうやって、ほら辛棒した。自分の路を見つけた。そして、その路を行くんです。タワーリシチ、ギーゼル! 私の心のなかを見なさい。あなたに、何一つ悪いことを願っちゃいないんですよ。」
 メーラに云わせれば、感動したインガとグラフィーラとが思わず互に抱き合ったのも、接吻しあったのも、小市民気質だそうである。けれども、今はただ一人の男のとり合いをやめて和睦した二人の女が抱き合ったのではない。ひろさの違いこそあれ、同じ目標に向って、めいめいはっきり自分の道をもつ
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