二人の女同志が抱き合ったのであった。
「――すっかり……終った。」
インガが独言のように云った。
「――間違った!……自分をあざむいた!」
「簡単に生きて行きゃいいのさ!」
メーラが、またお座なり哲学を並べた。
「むずかしく考えなさんなよ!」
インガはメーラのようには考えぬ。
彼女にとって、失敗はさらに一歩前進するための教訓でしかない。インガは、決してあきらめはしない。彼女は未来の文化のために管理しているソヴェトの生産拡大の努力を。インガは決してあきらめてはしまわない。いつか彼女が新しいソヴェト女性として、性関係においても一つの新建設をすることを。勢のいい音を撒きちらして、卓上電話が鳴った。インガは新たな意志で受話器をとった。
「――はい。工場です。モスクワから?……どうぞ、インガ・ギーゼルがきいています。」
[#地付き]――(アナトリ・グレーボフ作「インガ」四幕から。) 〔一九三一年三月〕
底本:「宮本百合子全集 第九巻」新日本出版社
1980(昭和55)年9月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本「宮本百合子全集 第六巻」河
前へ
次へ
全31ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング